【第八章 全ての創り手は、『静かなるBUYサイン』を信じて進め ~心構え術~】

■全ての創り手は、『静かなるBUYサイン』を信じて進め!

 僕は作家がネットで自作の感想を見ることをオススメしていません。

 たった一つの悪評によって、作品が恣意的に歪まされ、良くない方向に向かう可能性があるからです。

 もちろんポジティブな意見は大歓迎です。作家は、サイン会やイベント、ファンレターで読者からの応援を聞くと、本当に元気が出ますし、執筆の活力になります。

 しかし、作品を不特定多数の読者に向けて発表した場合、どうしても批判的な意見は出てきてしまうものです。そのなかには、深い考察と仔細な分析に基づいた鋭いご指摘もあれば、理論もへったくれもない、まるで作家を傷つけるためだけに発せられたとしか思えないような罵詈雑言もあります。

 そういった、(鋭いご指摘ではない)単なる悪評や心ない文句を過度に気にして萎縮してしまうというのは、まったくもってナンセンスです。

 僕が大事にしてほしいのは、『静かなるBUYサイン』です。

 限りある時間とお金の中から、その作品のために『BUYサイン』(=購入)を出してくれた大多数の読者のことを考えてほしいのです。業界用語で『サイレントマジョリティ』(静かな多数派)とも呼ばれる層です。

 たとえば僕は、ほぼ全てのスタンド名とキャラクター名を言い当てられるくらい『ジョジョの奇妙な冒険』が大好きです。

 ですが、その『大好き!』という気持ちを僕は荒木飛呂彦先生に伝えたことはありません。

「オマエ、なに当たり前のこと言ってるんだ、バカか?」

 とツッコまれたことでしょう。

 もちろん仰る通りなのですが、正確にいうと、「週刊少年ジャンプ」や「ウルトラジャンプ」(集英社刊)の読者アンケートを出したことはありませんし、荒木先生にファンレターを出したこともない、ということです。もちろんブログに感想を書いたことはないし、amazonレビューだって書きません。

 一方で、僕は『JOJO』のコミックスの新刊が出れば必ず買います(第四部の『JOJONIUM』化、待ってます)。二〇一二年に六本木で開催された荒木飛呂彦原画展『ジョジョ展 in TOKYO』にも行ってポストカード一〇〇枚セットとピンズセットも買いました。画集は『JOJO6251』『JOJO A GOGO!』『JOJOVELLER』(すべて集英社刊)とすべて持っていますし、ゲームは『オールスターバトル』の黄金体験BOXを三つ買いましたし、『アイズオブヘブン』(ともにバンダイナムコゲームス)は予約しましたし、グッズも集めています。

 ですが、これまでも、これからも、僕がその『BUY』という行為や感想を、ファンレターやアンケートなどで荒木先生に伝えることはありません。

 作品が面白かった、感動を与えてくれた、これからも荒木先生を応援したい!

 その想いの伝達は、『BUYサイン』……つまり荒木先生の創作物を購入し続ける、ということでしか代行しません。それが最もクリエイターにとって力の源となる能動的アクションだと確信しているからです。

 BUYサインは、数字となって創り手のもとに返ってきます。『数字』と聞くと何となく商売の臭いがして、人の温かみのない印象を持たれがちですが、全くの誤解です。『数字』で表れるものとは、『声は発さなくとも、いつもBUYという行動で応援するファン』が世の中にはたくさん存在することの証明です。

 声を上げてアクションを起こす層……ポジティブな意見をくれる人、ネガティブな意見をくれる人、両方含めても、全体の総対数から考えるとそんなに多くありません。僕の担当作の販売累計部数とファンレターの比率を参考にするなら、〇.一%程度でしょう。

 もちろんポジティブな意見はさきほどお伝えした通りどんなに少なかろうが大歓迎です。

 一方、ネガティブな意見について言うと、『静かなBUYサインをだす応援団』の方が、『声を出す悪意の数』よりも何百倍、何千倍も多いにもかかわらず、作家によってはその悪意にのみ過敏に反応して、作品の方向性を悩んでしまったり、落ち込んで執筆ペースが落ちてしまったりします。

 これは本当にもったいないことです。生産性のない、すごく後ろ向きなことです。そんなノイジーマイノリティの何百倍、何千倍も、作品を待っている人たちがいるということを是非忘れないようにしてもらいたいです。そんなときこそ、『面白ければなんでもあり』という『人生の加点法』で、その(敢えて言わせて頂きます)『くだらない悩み』を払拭してほしいのです。

 この向き合い方は、作家に限らず、何かの作品、製品、サービスを世に送り出すすべての職業の人に当てはまる考え方だと思います。あなたが『何か』を頑張っているなら、最高の『何か』を心待ちにしている人たちのために、あなたの最高の『作品』を届け続けましょう。

 そうすれば、今よりも、世の中がもっともっと面白さに溢れるはずです!