【第七章  メディアミックスとは「知る機会」を持ってもらうこと  ~広げる(メディアミックス術)~】

■ラノベとメディアミックスの相性は抜群

 これも僕の経験則による感覚ですが、一つのシリーズ作品は、順調に売れ部数を伸ばしたあと、右肩上がりの売れ行きが一旦横ばいになる、『階段の踊り場』とでもいうような停滞期があります(もちろん部数はとても良い数字という前提ですが)。

 理由は明確には分かりませんが、おそらく『そのシリーズ作品の潜在読者の手に一通り行きわたった』から、なのではないかと思っています。そこから、さらに一皮剥けるために採る方法がメディアミックスです。

 もちろん、『内容をもっと面白くする』『読者の意見に耳を傾けて、期待値を高めていく』ことを忘れてはいけません。中身のクオリティアップと、外側のデコレーション強化はまったく別の話です。

 そもそもメディアミックスとはなんでしょうか。

 簡単に言えば、ある原作コンテンツを他種類の媒体で展開することです。

 原作コンテンツが電撃文庫という『小説』だとすると、他の媒体……グッズ、電子書籍、漫画、ゲーム(コンシューマ、スマートフォン)、アニメ(TV、劇場)、実写映像(TV、劇場)、舞台、その他媒体とのコラボレーション(タイアップ等)などを展開することが、メディアミックスです。

 エンタメ小説(ラノベ)は、その一次コンテンツとして非常に優れている媒体だと僕は思っています。その理由は、五感の広がりと市場規模のアップサイジングにあります。

 五感の広がりとはなにか。

 小説:視覚で、「文章」を楽しむ。

 マンガ:視覚で、「文章と絵(静止画)」を楽しむ。

 アニメ:視覚+聴覚で、「映像(動画)と音」を楽しむ。 

 小説をメディアミックスする、つまり他媒体に転じるとき、必ず情報量が増えていくことが分かると思います。

 情報量が多い媒体は、利用者の規模も多くなる傾向にあります。ユーザーが娯楽を楽しむ上で、ユーザーの方が負担しなければならない(想像で補わなければならない)情報量が少なくなる=大衆(マス)向けになるからです(ここで利用者と表現したのは、消費者ではないからです。TVアニメにたとえるなら、TVで無料で観る利用者と、その後のブルーレイディスクやDVDを購入する消費者はまた異なります)。

 小説はどの媒体に転じても、かならず情報がアップサイジングされています。つまり、どんなメディアミックスを行っても必ず情報量が増え、多くの潜在ユーザーにアピール出来るということです。たとえば小説からコミカライズされたら、そのパイは広がっていくでしょう。しかし逆に、マンガのノベライズだと、特定のコアなファンへ向けたアイテムという印象を抱きます。市場的にはシュリンク(縮小)しているイメージです。

 つまり、小説業界はメディアミックスという川の一番川上に位置している、と言ってもいいのです。僕が、小説はメディアミックスと相性が良いと思っているのは、源流から、その作品が広く大きい下流に流れるイメージを描いているからかもしれません。

 メディアミックスの最大のメリットは、やはり『知らない層に存在を知ってもらう』ことに尽きます。

 世の中には様々な趣味や嗜好をもった人がいて、それぞれの媒体で育っているユーザーが存在します。

 マンガしか読まない層。アニメしか観ない層。音楽しか聴かない層……などなど。これは少し極端だとしても、特定の媒体やジャンルでないとなかなか食指が動かない、という人は多いでしょう。彼らは、他の媒体が嫌いだからそうしているわけではなく、本当に気にしていないだけ――存在を知らないだけなのです。

 僕は彼らに、他媒体の作品の存在を伝えることがメディアミックスだと思っています。

 メディアミックスが成功すると、タイトルの認知度が飛躍的に跳ね上がります。

 それは、客観的にわかりやすい発行部数という数字にも表れます。たとえば、アニメ放送前の『灼眼のシャナ』は、計九巻で累計一二〇万部でした。それが、アニメ第一期が放送されたあとは、外伝含む計十六巻で累計四五〇万部、つまり約四倍の部数になりました。

 同じように『とある魔術の禁書目録(インデックス)』は、アニメ放送前は計十七巻で累計三二〇万部でしたが、本伝アニメ第一期、スピンオフである『とある科学の超電磁砲』第一期、そして本伝アニメ第二期と放送を重ねていくと、二〇一〇年には、その累計部数は電撃文庫史上初の一〇〇〇万部を突破しました。つまり、二年で約三倍になったのです。

 最後に『ソードアート・オンライン』。こちらは、アニメ化発表前は計八巻で累計一六五万部でしたが、アニメ第一期が放送されたあとは、シリーズ計十一巻で、累計六二〇万部になりました。つまり、こちらも約四倍です。

 これらはすべて、アニメというメディアミックスによるものです。