【第七章  メディアミックスとは「知る機会」を持ってもらうこと  ~広げる(メディアミックス術)~】

■本は、店頭に並ぶ前から勝負は決まっている

 書き下ろしが多い小説編集者の本作りにおいて、『勝負のとき』はいつだと思いますか?

『書店に本が並んだとき』、『ネット通販サイトで本の予約が開始されたとき』……と思っていらっしゃる方がいたとしたら、残念ながら、はずれです。

 実は、その段階ですでに『勝負』は終わっています。

『作品の内容の打ち合わせ』からはじまり、『イラスト選定』、『デザイン』、『あらすじ』、『タイトル』などなど……。『書店に本が並ぶ』もっともっと前に、『勝負』のときは来ているのです。それら種々の勝負の後に考えるべきは『宣伝施策』なのですが、当然ながら、一冊一冊に何百万という潤沢な宣伝予算があるわけではありません。毎月の定期告知物に+α(たとえば、作家のブログやツイッターで紹介するとか、「電撃文庫MAGAZINE」に短編を載せるなど)できるかどうか、というところでしょう。

 書店に本が並んだときには勝負結果のリザルト画面が出ているようなもので、作り手にできることは本当に限られているのです。だからこそ、書店に本が並ぶ前、すなわち本の制作段階において、やれることは全てやりつくしておかなければいけません。

 待っていたら偶然、作品が取り上げられるかも。良い本をつくってさえいれば、誰かが読んでくれるかも。そんな『かも』が通用する時代はとっくに終わっています。いくら良い本をつくったところで、その本の存在を「認識」してもらえなければ読者は手に取りようがありません。ただ書店の棚に並べられているだけでは、その本の存在は多くの読者にとってあってないようなもの――背景となんら変わりないのです。

 背景と変わらなかった本を「認識」してもらい、手に取ってもらい、あわよくばレジまで持っていってもらうには、どうすればいいでしょうか。

 知ってもらうしかありません。書店で本が並ぶ前の勝負が終わったあとは、なりふりかまわず宣伝施策を考えるしかないのです。ささいなことでもなんでもいい、とにかく読者に本の存在を気づかせる、出会ってもらう機会をつくるのです。宣伝というと、TVでCMを流したり、新聞で一面広告を出したりといった大がかりなものばかりを想像しがちですが、そんなことはありません。たとえば、本の存在に少しでも気づいてもらうために、ポップ(書店で本の周りに飾られている小さい宣伝パネルのこと)を一つ用意してみる。並べられた数多の本のなかで、唯一「オススメです!」と書かれたポップがついていれば、読者にはその本だけが背景から浮き出て見えるかもしれません。

 どんなチャンスも逃さす、露出機会を窺うというのが宣伝の仕事です。ゆえに、限られた宣伝予算は有効に使う必要があります。いくらお金を使ったとしても、投資した先に潜在顧客が存在しなければ、宣伝の意味はありません。