【第六章 とあるラノベ編集の仕事目録 編集者になってから編】

■トラブルは信頼関係で対応する

 いろんなメディアミックスを経て、僕の周りには信頼できるパートナーが徐々に増えていきました。

その成果の一つが、『とある魔術の禁書目録(インデックス)』のスピンオフコミック、「月刊コミック電撃大王」連載の『とある科学の超電磁砲(レールガン)』でした。シリーズ累計六〇〇万部に迫る人気作ですが、この企画が僕のもとに持ち込まれた当初、正直に言うと冬川基さんの作画が、原作イラストレーターのはいむらさんとはあまり似ていなかったので、原作ファンにどう受け止められるか不安でした。

 ですが、持ち込んできたマンガの担当編集者は『シャナ』のコミカライズをともに進めて成功させた実績のあるパートナーです。創作チームとしての信頼関係がしっかり築けていました。「この編集がここまで冬川さんを推薦するのなら、任せてもヘタな作品にはならないだろう」と思い、一任することにしたのです。

 結果として、『超電磁砲』は、僕の不安など軽く吹き飛ばしてしまうほどの大ヒットとなりました。

 長年原作に携わっていると、仕事を遂行するためにおべっかを使う人間も出てきます。そういう人間に大切な原作を渡してしまうと、気持ちのこもっていない作品が生まれてしまい、ファンである読者にそのツケをまわしてしまうことになります。原作を好きな読者が迷惑を被ってしまうのは、絶対に避けるべきです。

 そうならないための一番のポイントは、信頼できるパートナーへ託すことだと学びました。

 メディアミックスをしていると、いつもより関わる人が多いため、トラブルも少なくありません。そういう時に信頼関係があるかないかでリカバリーのクオリティが大きく違ってきます。

 二〇一〇年のことです。

 とあるアニメで大問題が起こりました。

 スタッフ間のささいな誤解と連絡不備が元で、スケジュールに壊滅的な遅延が発生しました。

 しかも、放送直前の重要な時期に、アニメスタジオの制作進行が辞めてしまい、仕事の交通整理も情報共有もまったく機能しなくなってしまいました。そのリカバリーがとても大変で、最終的には制作進行が五人も入れ替わることになりました。これがどれだけの異常事態かというと、僕は今まで三〇クールほどアニメに携わってきましたが、後にも先にもこんな事態はこれ一回きりでした。週に何度も深夜まで対策会議を続けて、ようやく乗り越えられたのですが……今から思えば、クオリティを保ちながら無事にオンエアし終えたのが奇跡のようなものでした。

 このトラブルも、ちゃんと信頼関係が構築されているメンバーがいたからこそ、どうにか乗り越えられたのです。僕よりも寝ないで仕事をしているプロデューサーや、深夜に休日、いつ電話しても必ず対応してくれる気合の入った同僚、最後の責任は全部持つからギリギリまで頑張ってみろと見守ってくれた編集部の上司……とても心強かったです。

 信頼関係があれば、リスタートも簡単です。プロジェクトでなにか失敗やミスをしても、「次いこう、次!」とスムーズな敗因分析を経て次のバッターボックスに立つことができます。

 そもそも、電撃文庫編集部は昔からそうでした。『シャナ』は高橋さんの一作目がうまくいかなかった中で、あきらめずに次のバッターボックスに立ってバットを振ったことで生まれた作品です。部内では、一作目の失敗について糾弾する声は一言もなく、ただ次作をつくる作家と編集者を見守ってくれました。『俺の妹』も同じく二作目のヒット作で、これも編集部がセカンドチャンスを与えてくれたからです。

 そして、こうしてトライし続けられるのは、読者の方々のおかげでもありました。面白いものは面白いと意志表示をしてくれて、そして一度面白いと感じてくれたら、心強い味方となってくれる。そんな読者の方々は、編集者にとって頼もしい存在であり、勇気づけてくれる友人のようなものです。『スパイダーマン』風にいうなら『親愛なる隣人』たちのような読者に、これからも「面白い!」と感じてもらえる作品づくりを誓ったのでした。