【第四章 『売れる』と『売れない』はココが違う ~編み出す(編集術)~】

■必ず『対案』を出せ

 打ち合わせで、なんらかの修正の指摘をするとき、僕は絶対に『対案』を出します。

 作家は、編集者に原稿を提出したとき、今のベストを出してきているはずです。にもかかわらず編集者はダメ出しを行うわけですから、「なぜこの人は文句ばかりつけてくるんだろう」「そんなにあら探しばかりして、いやがらせだろうか」「もしかしたらこの人は自分のことを敵対視しているのかもしれない」と思われることも、可能性としてゼロではありません。もちろん、そんなことになったとすればとても悲しい誤解なのですが……。

 ですから、誤解を防ぐためにも、「なぜ修正したいか」「なぜここに指摘を入れたか」を明確に伝えるよう意識することが重要です。指摘する側にはその責任があります。

 もし代案を出さないまま打ち合わせが進むと、なにがいけないのでしょうか。作家の方には、編集者の指示しか理解出来ず、意図が不明のままになるという問題が発生します。編集者の方には、ダメ出しだけで済ましたため、その作品に対してオーディエンス(傍観者)のままになってしまうという問題が発生します。

 作家と編集者は共に市場で戦うチームメイトだからこそ、「どこがダメか」と「だからこう改善する」はセットであるべきです。意図を伝えない傍観者のままでは信頼関係が生まれません。野球の試合をバックネット裏で野次っているマナー違反のファンと同じです。グラウンドにおりてきて、一緒に対戦相手と戦うために、もう一歩踏み込まなければいけません。

 良くないダメ出しは、『もうちょっとこのキャラ強く』とか『このシーンにもうちょっとサービスシーンを』とか『キャラが薄っぺらいのでどうにかして』という、『だけ』の指摘です。

 指摘自体は正しいとしても、それはなにを意図しているのか、その先を作家は知りたいのです。

 仮にこれで打ち合わせがうまくいったとします。ですが、それはそれで問題なのです。なぜなら、『だけ』の指摘を繰り返していると、作家がその編集者がなにを考えているかを探りはじめ、編集者の機嫌伺いのようなかたちで答えを見出そうとしてしまうからです。

 つまり、打ち合わせの目的が変わってしまうのです。作家の『直す方向性』、いわば『面白さの矛先』が、今までは読者に向いていたものが編集者のほうに向いてしまうのです。チームとして共に市場と対峙したいのに、これでは味方同士で腹の探り合いということになり、ちっとも建設的ではありません。もっと言うなら、作家の個性を潰すことになるかもしれません。

 ただし、編集者が『対案』を出すと言っても、「対案をそのまま採用して、この通りの展開にすべし!」という強制ではもちろんありません。

 具体的な対案を聞くことによって『編集者がここでなにを直して欲しかったか、何を盛り込んで欲しかったか』という意図をこそ分かって欲しいのです。対案を出して語り合うことによって、編集者が感じている作品に抱いたイメージを、作家と共有したいのです。

 個人的には、ここが小説の創作過程でとても大事な時間帯だと思っています。作家と編集者が互いに「どれが良いか」「どれが面白いか」という、『物語』の根幹について話し合いをしているからです。

 しかしながら、『言うは易し、行うは難し』で、『対案』によるイメージ共有の打ち合わせはかなり難航します。やはり基本は編集者が『ダメ出し』をしていることになるため、信頼関係があったとしてもギスギスすることもあるでしょう。互いのキャリアに差があったりすると、なおさらその可能性も高くなります(たとえばベテラン作家に対して新人編集者は『対案』を言いづらいでしょう。逆もまた然りです)。

 そんなとき、打ち合わせをスムーズに進めるコツが一つあります。

 打ち合わせの場を、常に『明るく楽しく!』することです。

「そんだけかよ!」というツッコミが聞こえてきそうなほどにシンプルなのですが、これを意識しているか否かで、本当に結果が大きく変わるのです。

 基本的には「ダメだし会」になってしまうのが打ち合わせです。作家にとっては一番良いと思っている原稿に文句を言われ続けるのですから、良い気分になる人はいないでしょう。

 だからこそ、いかに「楽しい打ち合わせ」にするかが重要なのです。

 すでに何度も言いましたが、作家は機械ではありません。気分の上げ下げは当然ありますし、ちょっとしたことでモチベーションが下がるのもよくあることです。

 気持ちよく創作できたほうが良いに決まってますし、機械ではないからこそ、楽しく仕事ができれば作品の質だって上がるというものです。仮に同じ内容を話していたとしても、明るく楽しく前向きな打ち合わせの方が、ひらめくものも違ってくるかもしれません。

 そのための心がけはたった一つです。小説を好きだという『前向きな気持ち』を忘れないように、作家と真摯な態度で接すること。その態度を行動で示すこと。そもそも、作家も小説が大好きだから作家なのです。自分の作品で誰かに喜んでもらうことも、大好きです。同じ好き同士、同じマインドを持つ者同士の会話が、楽しくならないわけがないのです。

 もしかしたら読者にも、作品を通してその『楽しさ』が伝わるかもしれません。仮にいがみ合ってつくった作品は、もしかしたらそのムードが読者に伝わってしまうかもしれません。げんかつぎレベルかもしれませんが、そういったことを信じて、打ち合わせの場は、常に『明るく楽しく!』をモットーにしています。