【第四章 『売れる』と『売れない』はココが違う ~編み出す(編集術)~】

■電撃文庫版『ソードアート・オンライン』は、既読ファンという『先輩編集者』との真剣勝負

 三木botというものをご存じでしょうか? はい、知らなくて当たり前です。すみません!

 これは、『SAO』の作家である川原礫さんとの打ち合わせ時に良く出るキーワードです。「bot」というのはPC用語で、特定の動作をし続ける自動プログラムのことなのですが、最近ではツイッターで特定の言葉を自動でつぶやく存在として『○○bot』という名前が使われていたりします。

 僕と川原さんは、かれこれ六~七年のお付き合いで、打ち合わせも何百回としてきました。

 その甲斐あってか、最近は原稿の『修正箇所』がかなり少なくなり、普通は三~四時間程度かかる打ち合わせも、一時間くらいで終わることが増えてきました。

「川原さん、今日は第一稿目の打ち合わせなのに、すんなりと終わりましたよね。なにかコツをつかんだんですか?」

「それがですね、最近私の脳内で『三木bot』が稼働していて、原稿を執筆しているときも『ここはもうちょっと派手にいきましょう』とか『ここはもうすこしエロくしましょう』とか先に修正指示を出してくるんです。なので、私の中では打ち合わせは二回目なんですよ」

 な……三木botすげぇ! ぜひとも製品化して担当作家の皆さんに配りたい!

 と、夢想はさておき……このように『お互いに効率が良い原稿執筆や打ち合わせ作業』は、二人がイメージしている『家訓』がブレずに一致しているからこそ起こりうることです。

 僕にとって川原さんとの打ち合わせは、川原さんの、そして『SAO』の背後にいる何万人という既存ファンとの真剣勝負です。「『電撃文庫版SAO』は、こんなに面白いぞ!」と言わせられるかどうかという戦いとも言えます。『SAO』は、もともとオンライン小説で、無料で読めていました。しかし今はお金を払わないと読めません。それを良しとさせる+αの価値をいかに出せるか。abecさんの美しいイラストだけではなく、『物語』としても電撃文庫版のほうが面白いじゃん、そう思ってもらえる価値提供を実現しなければなりません。そのためには、さきほどのような『家訓』の一致が必要不可欠で、今後も一致を維持できていれば、必ず期待に沿えるのではないかと確信しています。