【第四章 『売れる』と『売れない』はココが違う ~編み出す(編集術)~】

■『禁書目録』はサムライ同士の斬りあい

 作家から提出された原稿を読み込んだあとは、必ず打ち合わせを行います。

 ここでは両極端な打ち合わせ例を二つ紹介します。まず『とある魔術の禁書目録(インデックス)』の場合。

『禁書目録』に限った話ではありませんが、鎌池さんとの打ち合わせには、妥協という二文字が存在しません。

 毎回、サムライの真剣勝負のような打ち合わせになります。僕が「ここはこう直しましょう」と指摘をしたとき、それがちょっとでも理解が及んでない頓珍漢なものだと、鎌池さんは「はぁ」と『確実にこれ、編集者は理解してないだろうな』と言わんばかりの気の抜けたリアクションをします。

 これが大変悔しい。すべての指摘に、鎌池さんから的確な指摘をしたときのリアクション『わかりました!』をもらいたい! いつしか、僕は鎌池さんとのうち合わせを、最強のサムライに挑む戦いと考えるようになっていました。

 鎌池さんとの打ち合わせでの僕のコンセプトは、少年漫画をつくること、です。

 スカッとするバトルがあること。そのバトルがストーリーのクライマックスにあって、感情のピークがそこにしっかり盛り込まれていること。そしてラストはハッピーエンドで終わること……。

 修正指示も、ブレーキをかける提案ではなく『ここに今は矛盾が存在します。ですから物理的に可能にするために、抑えるのではなくぶっ飛んだ演出を考えましょう』と前のめりにいくことを心がけています。つまらない突っ込みよりも、印象強い見せ場を、いかにカッコよく描くかを優先しているのです。それが鎌池さんの作風に対するベストな演出だと思っているからです。

 ちなみに『禁書目録』シリーズでは、「ぶっ飛んだ演出」を重視した例として、「数字を二ケタ増やす」というものがあります。

『禁書目録』第三巻では、妹達(シスターズ)という御坂美琴のクローンの女の子『ミサカ』がたくさん登場します。物語の中盤、そのミサカ(自分のクローン体)の数の多さを知り、事の重大性を再認識した美琴が過去のDNA提供を後悔する、というくだりがあるのですが――。

 ここで質問です。『たくさんクローン少女が登場する』と言われ、何人くらいを想像しましたか? 一〇人や二〇人では普通っぽく感じますよね(大家族ならそれくらいお子さんがいることもあります)。なら一〇〇人や二〇〇人、ゾロゾロと登場したらどうでしょう。一〇〇人単位でクローン少女が向こうからやってきたとしたら、これはかなり恐怖を感じると思います。

 ええ。だからこそ、その幻想を二桁(ぶち)増やす(ころす)!!

 本編ではミサカが二〇〇〇〇人登場します。その半分はすでに一方通行(アクセラレータ)に殺されており、残りのミサカ全員を、上条は救おうとするのです。百や千ではなく、『一〇〇〇〇人のクローン少女を救った男』というまさに『桁違い』のインパクトを表現してみたというわけです。この限界突破の勢いこそが、『鎌池さんらしさ』であり、鎌池作品の良さを一番引き出せる『演出』だと僕は考えています。

 そんな鎌池さんとは、第一稿から脱稿まで、だいたい四~五回打ち合わせを繰り返します。彼は速筆なので、僕が読んでいる間も同時並行で他の原稿をどんどん書き進めています。その筆の速さを証明するように、最近はほぼ毎月一冊のペースで作品を発表しています。

 最強のサムライ、恐るべし。