【第四章 『売れる』と『売れない』はココが違う ~編み出す(編集術)~】

■期待を裏切らず、不安を裏切れ

 『面白い』と読者が感じてくれるのはどういう瞬間でしょうか? 

 僕は『期待を裏切らず、不安を裏切った』瞬間である、と考えています。

 読者の期待を裏切ってはいけません。これは大前提です。やはり主人公にはスカッと勝ってほしい(と思う人のほうが多い)ですし、思い入れがあるキャラクターには最終的に幸せになってほしい。

 ならば、そう読者が願う、思った通りの展開を描けばいい……ということになりそうですが、それだけではエンタメ作品としては失格です。読者は、心のどこかで『アッと驚かせてほしい』とも願っています。ですから、読者の予想以上のものにする必要があるわけです。

 ここで間違ってはいけないのは、『予想以上のものにする』ために『期待を裏切る』ストーリー展開にしないことです。それでは、ネットスラングでいうところの『誰(だれ)得(とく)展開』(『誰が喜ぶ(得する)展開なの、これ?』の意)になってしまいます。突拍子のないシナリオだったり、意味不明なキャラ設定をつければ良いというわけではありません。そういう『空気の読めなさ』を読者は敏感に察知しますから、駄作と判断されるどころか、最後まで読んでもくれないかもしれません(読者は、最後まで読み切った作品に対して初めて「評価」をするのです)。

 たとえば『灼眼のシャナ』なら、坂井悠二は『存在の力』といういわば『裏の物理法則』を少しずつ学び鍛錬を重ね、最終的に強大な敵とも渡り合える能力を身につけていきます。にもかかわらず、突然謎の超能力を身につけて『存在の力』のルールをねじ曲げ強大な敵に勝利したり、自衛隊の高官と知り合いになってミサイルを敵の本拠地にぶち込んだり、といった展開にしたとしましょう。たしかに読者は驚くかもしれませんが、誰も『期待以上』とは思わず、ほとんどが『期待以下』と感じるはずです。『不安』が的中したとも感じるのではないでしょうか。そう感じた読者は、「この作品は自分にちょっと合ってないかも」と思い始め、最終的には読むことを止めてしまいます。