【第三章 とあるラノベ編集の仕事目録 編集者になるまで編】

■ドMは成長が早い?

 当時の電撃文庫では、『ブギーポップ』(上遠野浩平著)や『キノの旅』(時雨沢恵一著)はもちろんのこと、『イリヤの空、UFOの夏』(秋山瑞人著)、『Missing』(甲田学人著)、『吸血鬼のおしごと』(鈴木鈴著)、『悪魔のミカタ』(うえお久光著)、といったヒット作が立て続けに生まれていました。

 先輩方が放つヒットラッシュに触発されるように、僕はひたすら電撃文庫を勉強しました。同時に、実戦経験を積むことも大事ですから、なるべく多くの文庫を編集することを心がけました。目標として、月に一冊はかならず文庫を担当すべく、できるかぎり作家の担当に立候補しました。

 一般文芸と異なり、エンタメ小説(ラノベ)にはイラストがたくさんあしらわれています。

 イラストはラノベにとってとても重要です。本文とイラストは、飛行機における両翼のようなもので、どちらか片方だけでは空を飛べません。

 ですから、僕はイラストについても必死に研究しました。

 編集部内で最もイラストの選定眼を持っていた先輩(『イリヤの空、UFOの夏』『悪魔のミカタ』の担当編集者)に教えを請うために、複数の美少女ゲーム誌を持ってこう質問しました。

「この本に載っている、このイラストレーターさんとこのイラストレーターさんが良いと思うのですがどうでしょうか?」

 すると帰ってきた言葉は、

「はぁ~。キミ、重症だな」

 重症という言葉にどういう意味があったのは定かではありませんが、この段階での僕のイラスト選定眼はまだまだ甘く話にならない、ということだけは痛感しました。

 当時、ようやくわかってきたのは、細部まで丁寧に描き込む『ハイエンド系』と呼ばれるイラストに注目が集まりつつあるということでした(著名な方の代表としては『イグナクロス零号駅』のCHOCOさんでしょうか)。『ハイエンド系』イラストを集めたビジュアル誌(ジャパン・ミックス社の『Puregirl』やビブロス社の『Colorful PUREGIRL』など)も多く出版されている時期で、そこでイラストを描いている方々が、ラノベの挿絵に起用されていく流れもできつつありました。つまり、『ハイエンド系』を学ぶことがイラスト選定眼を鍛えることと同義だったのです。

 突然ですが、僕はSかMか属性を聞かれたならば、ドMと答える人間です。

 オブラートに包んだレクチャーよりも、辛辣でもズバッと指摘されたほうが成長するという自覚があります。

 なので、様々な美少女ビジュアル誌を抱え、何度もその先輩編集のもとに持っていきました。

「キミ、これのどこが良いと思ってるの? むしろなんでダメなのがわからないの?」

「すみません。わからないので教えてください!」

 罵倒七割、指導三割といった塩梅の会話を繰り返し、そのたびに呆れられながら、感覚を磨いていきました。

 当時は十八禁ゲームやPC美少女ゲーム全盛の時代で、その業界に優れたイラストレーターが集まっていました。僕はそれらのゲームのビジュアルブック(原画集)を買い集め、どんなイラストが今の流行なのか、一生懸命勉強しました。

 そんな努力が実を結んだのか、翌年、僕の黄金期が到来します。