【第一章 読者に媚びない作品は格好悪い  ~たくらむ(企画術)~】

■想定読者の『アイツ』に刺せ

 作品にとって、『想定読者』はとても大切です。

 想定読者とは、自分が一番届けたい、読んでもらいたい相手のことです。何歳で、どんな人で、どんな生活を送っていて、どんな趣味を持っていて、いつ本を読むのか、学校や職場ではどんな立場なのか。そして、この作品に触れた時、どんな気持ちになるのか――。

「いやいや、現実にいる人じゃないんだから、そこまで想像しきれないよ!」と思いましたか?

 ではこう考えてみましょう。想定読者というのは、想像上の『誰か』ではなく、自分のよく知る特定の人物でかまわないのです。アイツだったら、こういう展開にこそ燃えるはず! アイツだったら、確実にこのヒロインに惚れるな。アイツだったら、アイツだったら、アイツだったら……。『アイツ』という言葉がゲシュタルト崩壊を起こすくらい、徹頭徹尾『アイツ』のことを考えるのです。

『SAO』の想定読者は、川原さんと同じネットゲームを楽しんでいる仲間たちでした。もっと身近に、親友でもいいですし、家族や恋人でも構わないと思います。重要なのは、どこの誰に読んでもらいたいかを明確にすることで作品の方向性が見えてくる、ということです。

 そうはいっても、現実にいる『アイツ』なんて思い当たらない……という人もいるかもしれません。そんな時は、今現在、あるいは過去の『自分』を想定読者にすればいいのです。

 そもそも小説を書くという行為は、「自分の本能に従った、『性癖』を暴露してでも伝えたい何か」を文字で具現化するということです。それならば、自分が想定読者であることになんの矛盾もないはずです。

 ポイントは、『いつ頃の自分を想定読者にするか』です。たとえば「ネトゲ最高!」という作品を書きたいのならば、『いちばんネトゲにハマっていた頃の自分』が想定読者です。それが今現在であるならば今現在の自分でかまいませんし、高校生の頃なら、『いちばんネトゲにハマっていた高校時代の自分』が想定読者になります。そして、高校時代の自分がどのようにネトゲを楽しんでいたのか、どんな生活を送っていたのか、学校ではどんなことを考えていたのかといった、本来の想定読者について考えるときと同様に、なるべく事細かに思い出していくのです。すると、「なんであんなことで悩んでいたんだろ。バカみたい」「あぁ、結局好きなあの子に告白できなかったなぁ。今なら絶対告白するのに」というふうに、自分の過去の体験や感情を客観的に見ることができるようになっているはずです。そうして思い出されたエピソードを、いかに現実世界よりも『面白く』していくかが、創作の腕の見せどころです。

 一、二年前ならいざ知らず、五年、一〇年前の自分というのは、もはや別人と定義しても違和感がありません。

 過去の自分とは、立派な『アイツ』――『想定読者』たりうるのです。