著者:三木一馬
「他の小説編集者と、どこが違うんですか?」
と、よく質問されることがあります。そんなとき僕は自問自答してみるのですが、実はなにも思いつきません。なぜなら、僕がやってきたことは、他の皆様と同じだからです。いえ、もっと低レベルだったかもしれません。理系出身なのに文系職種志望で、どうにか出版社へ滑り込んだものの、小説はほとんど読んだことがなく、コミケすら知らない『落ちこぼれ社員』でした。作家やイラストレーターとの打ち合わせも、未だに四苦八苦しています。スーパーパワーや特殊能力、女神からの加護などがあったわけでもありません。たくさんの方々の協力のおかげでようやく本づくりが出来ている、ただの現場編集者、ただの凡人です。
なのですが、他の編集者と僕が異なる点があるとすれば、それは、どんなことでも、あらゆる出来事すべて、『人生の加点法』として考えてきたことです。
加点法をシンプルに説明すれば、何もないところに、『物事の良いところ』を加点、つまり評価を乗せていく……という考え方です。それを人生の出来事に当てはめると、『○○だから面白い!』『××だから好き!』『△△だから嬉しい!』といったところでしょうか。
より具体的に言うと、『御飯がおいしいから人生は楽しい』『面白いマンガを読んだから人生は楽しい』『体重が1キロ減っていたから人生は楽しい』『学校で好きな子と話が出来たから人生は楽しい』……など、誰もがそう思える、当たり前のことを評価し、人生のプラスにすることです。
ただし、もちろん人生は楽しい事ばかりではありません。失敗もあります。それにも当てはめてみます。『御飯がまずいから人生は楽しい』『つまらないマンガを読んだから人生は楽しい』『体重が1キロ増えていたから人生は楽しい』『学校で嫌いなヤツにいやがらせされたから人生は楽しい』……考えられるわけない! と思いましたか? はい、仰る通りです。絶対、無理です。
しかし、もしこれら『辛い出来事』に『人生の加点法』を当てはめる『コツ』があるとしたら、どうでしょうか。僕が唯一、他の小説編集者と異なるとすれば、その『コツ』に気づけたかどうか、だけだと思います。
これは、人生における大切な信条、というほど重要なものではありません。「もし頭の片隅に備えていれば、思わぬ時にすこしだけ役に立つかもしれない」程度の、『ささやかな心構え』です。それでも、僕にとっては心強いお守りとして常に役立っており、僕だけではなく誰もがいつでもできる『人生を面白く生きるための向き合い方』でもあります。